第13幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじは、アルツハイマー星に住む認知星人。
地球人の時はいたって普通の91歳。認知星人のスイッチが入ると私たちには思いもつかないような行動をする。今回は前号から引き続きトイレットペーパー。丁寧に畳んで家中に置いてあるトイレットペーパー。じーじにとっては磁気カードだったらしい。そんなことはつゆ知らず、私が捨ててしまったことから事件は勃発したのであった。
じーじ「なに!捨てただと、お前はなんてことをしてくれたんだ。いいか、あれは、軍の機密情報と、ペニシリンの製造方法がインプットされているんだ。これは大変なことになった。あの情報が漏洩したら、我が国は大変なことになる。」とうろたえるじーじ。
どうやら、私がゴミだと思って捨てたトイレットペーパーは、認知星人に変身中のじーじにとっては、機密情報が満載の大切な磁気カードらしい。
このまま放置しておくと混乱してますます大変なことになるので、ゴミ箱から拾って
私「無事に見つかったよ!」と渡したところ、
じーじ「お~。これで、情報は流出しなくなったから我が国の平和は保たれる。よかったよ」と満面の笑み。
しかし、気になるのは、その情報をどうやってインプットしたかだ!何故かというと、その辺に放置してある磁気カードという名のトイレットペーパーは湿っていることが多いので、たぶん、トイレで用(小)を足した後の使用済みと思われるからなのだ。
私「よかったね、でも情報ってどうやってインプットするの?」
じーじ「それもな、機密情報だから、お前にも教える訳にはいかないんだが、ヒントぐらいなら教えてやろう」と、自慢げな表情で、右手に持った磁気カードという名のトイレットペーパーを股間に押し当てて「ピッ!こうやって情報をインプットするんだが、これ以上は教えられんぞ」
は?股間に「ピッ」?
あっちゃ~、予感的中。じーじにとっての磁気カードは、やっぱり使用済みのトイレットペーパーだった!じーじのベッド周辺で漂うほのかな尿臭はこれだったのだ。
このまま家中に放置されても困るので、蓋が付いた容器を渡し「スパイに盗まれると困るから、この箱に入れてね」と言うと、大事にしまうじーじ。まあ、これで臭いだけはどうにかなるだろう。
第12幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじは、アルツハイマー星に住む認知星人。地球人の時はいたって普通の91歳。認知星人のスイッチが入るとそれはそれは、地球人が思いもつかないような驚くべき発想で私たちに難題を突き付けてくる。
最近のじーじは認知症の症状でよくあると言われる収集癖がみられるようになり、ズボンのポッケやシャツのポッケには、きれいに畳まれたトイレットペーパーを山ほど入れている。毎日、見つけては捨てているのだが、うっかり、ポッケを確認しないで洗濯機を回してしまった後の惨劇。「また、やられた~ぁ、くそじじー」「まあ、お下品な物の言い方」などと一人芝居をしながら紙屑だらけの洗濯物を干すこの虚しさ。
そんなある日、なにやらぶつぶつと言いながら、何かを探している様子のじーじ。普段はすり足で、カメさんのような歩みだが、今日は、チーターにも負けないような速さで家中をセカセカ歩き回っているではないか。
「なんだ、結構速く歩けるじゃない」なんて呑気に構えている場合じゃないほど、その形相は般若のよう。「どうしたの?」と尋ねると。
じーじ「オレの磁気カードがない」
私「磁気カード?」
じーじ「そうだ、ピンク色で、これ位の大きさの四角いやつだ」
ピンク?磁気カード?私にはなんのことやらさっぱり解らないが、じーじにとってはとても大切な物らしくますます、険しい顔つきで家中を探し回っているではないか。
じーじ「机の上に置いてあったやつも、寝台(じーじはベッドを寝台と呼ぶ)の横に置いてあったやつもないんだ・・・きっとスパイに盗まれたに違いない」
ついには、「もうだめだ…」と言ながら、頭を抱えてうなだれている。
お!ちょっと待てよ、ピンク!これ位の大きさ?…もしかして、トイレットペーパーか?わが家のトイレットペーパーはピンク色。そして、これ位の大きさ?机の上?ベッドの横?もしかしてあのゴミか?
私「あ!あれね。捨てちゃったよ」
じーじ「す!捨てただとぉ~。あれがないと、我が国には大変なことが起きる」
へ?大変なことが起きる?あの、トイレットペーパーがか?
じーじが、磁気カードと言う物の正体は、次週のお楽しみ!
【収取癖】認知症の症状のひとつ。モノを集めてしまう、または拾ってくるなどがある。
第11幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじは、アルツハイマー星に住む認知星人。
じーじは「俺に死ねというのか~」と言うと、何でも願が叶うと
インプットされたようで、何かあると、このフレーズを連発する。
先日も、瞬間接着剤が家にないことが解った瞬間「俺に死ねというのか~」
と言い出して大騒ぎするので買ってきた。急いで買ってきたのに、
願いが叶って満足したのか、瞬間接着剤を机の上に放置したままこの日はご就寝。
翌朝、「瞬間接着剤を買ってこい」とじーじ。
私「昨日買ってきたでしょ。机の上においたよ」
と言ったものの、昨晩置いてあったはずの瞬間接着剤が見当たらない!どうやら、夜中
に起きてどこかにしまったものの、しまった場所を忘れたらしい。
じーじ「瞬間接着剤がないと、飯が食えないんだ、俺は飯を食ってはいけないのか、俺
に死ねというのか~」
そりゃ~、ご飯を食べなきゃ死んじゃうけど…
飯が食えない?だから瞬間接着剤?なに?なに?私の頭の中は疑問でいっぱい。そこで
恐る恐るじーじに聞いてみた。
私「瞬間接着剤って何に使うの?」
じーじ「入れ歯だ」
私「入れ歯?」
じーじ「そうだ、あのオレンジの容器に入った瞬間接着剤は、なんでもくっつけること
ができるからな。前から俺が使っていたやつだ。だから、早く買ってこい」
あっちゃ~。どうやら、入れ歯接着剤が欲しかったらしいが、入れ歯安定剤を瞬間接着
剤と思い込んでいるらしい。瞬間接着剤を入れ歯に塗って口にはめられたら大変なこと
になる。
・・・ひらめいた。
「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」山本五
十六じゃあないけれど、瞬間接着剤を入れ歯につけたらどうなるかを実演することに。
幸いわが家には何かの時のために、合わなくなった入れ歯が3つもある。さっそく、探
し当てた瞬間接着剤を使って実演しようとした瞬間。
「お?これじゃないぞ、俺が欲しかったのは、ピンク色のクリームが出てくるやつだ」
とじーじ。
それは、入れ歯安定剤だよと言うと、「そんなことはない、瞬間接着剤だ」と言い放っ
てニヤリと笑うその姿、間違いを笑ってごまかすじーじであった。
第10幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじは、アルツハイマー星に住む認知星人。
認知星人のスイッチが入ると、私に数々の難題を突き付ける。
私にとっては困りごとの一つだが、認知星人にとってはいたって真面目な
問題なのである。
以前、固定資産税が3千万円になったとか、家を乗っ取られるからという訳のわからん
(私にとっては)理由で家を売ったぞ事件があったが、最近は言わなくなっていたので
安心していたが!また、「家を売った」の記憶が再燃したから大騒ぎ(実際は売ってない)。
じーじ「そういえば、家を売った〇〇建設から何か連絡はあったか?」
私「ないよ」
じーじ「○○建設に電話しろ」
しかたがないので 、いつもの電話をかけふりをしてみて、担当者が不在で今日は解らな
いと言ってみたものの、今回はどうにもこうにも治まらない。おまけに、パジャマの上
から上着を着て「俺が直談判をしに行く」と言い出す始末。もうどうにもならないの
で、奥の手の安定剤替わりのビールを献上しこの場は治めたものの、明日の朝が怖い!
案の定、翌朝起きてくるなり「今日○○建設に電話しておけ」の一言。短期記憶が失わ
れるのが認知症の症状のはずだが、じーじは思い込んだら命がけなので、納得するまで
忘れない。とにかく、家を売ってはいないということを納得してもらわないことには毎
日この騒動が繰替えされたらこっちの身が持たない。
・・・ひらめいた。
じーじは、外ズラ良男君なので、家族以外の言うことは実によく聞く。そこで、にせの
担当者を仕立てて説明してもらおう!不動産の知識があって、じーじが好きそうなこぎ
れいな営業マン。いた!Hさんだ。そこでHさんに事情を説明し、にせの名刺をパソコ
ンで作成し準備万態。翌日「○○建設の人が日曜日に説明に来てくれるって」と言った
ところ。
じーじ「何を言ってるんだ、〇〇建設?なんで家に来るんだ?俺にはさっぱり解らん
ぞ、お前は変なこと言うなあ」。
ひえ~~。恐るべし認知星人、せっかくニセ営業マンやニセ名刺まで仕込んだのに。こ
こ数日の騒ぎをすっかり忘れているのであった。まあ、忘れてくれて何よりなので、め
でたし、めでたし。
第9幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじは、アルツハイマー星に住む認知星人。
認知星人のスイッチが入ると一つの事に固執します。今日の固執は、「リハパン」。
今朝は、6時からほぼ、20分間隔でトイレに行き、そのたびに「リハパンを取り換えて
ほしい」と訴える。別に失禁しているわけでもなく、リハパンはきれい。
しかし、取り換えてあげないときっと怒るし・・・「認知症の方に対しては、否定をし
てはいけません」という法則があるので、「汚れてもいないのに何度も履き替えてもっ
たいな~。1枚いくらすると思ってんだよ~」と心の中で思いつつ、笑顔で応じる私ってお釈迦様!
しか~し、何回取り換えてあげても、トイレから出てくると「リハパン取り換える」と言うしまつ。ついに、イラッときたが、優しい口調で
私「さっきとりかえたから大丈夫じゃないかな~」
と言ってみたとたん
じーじ「リハパンぐらい好きに取り換えさせてくれないなんて、オレに死ねと言うのか~」
私の心の声「しまった・・・認知星人に変身中だった」
認知星人に変身中のじーじは、自分の欲求が通らないと大声を出して怒りだすし、
何故か頭を抱えて「オレに死ねというのか~」と言い出します。
そこで、ぴかっとひらめいた。
そうだ!取り換えた事実を忘れるのが認知症だった。
それならば、目から情報を入れて本人に納得してもらうことに作戦変更!
リハパンに「朝とりかえたよ」と書いて、そのリハパンを履かせてみた。
20分後、効果てきめん!トイレから出てきたじーじは、なにごともなかったようにソ
ファーに座り、テレビを見てる。
トイレでリハパンに書いてある文字を読んで、納得したらしい。
よっしゃ~、作戦成功。
その後もトイレには行きましたが、「リハパンを取り換えて欲しい」とは言わず、元気にデイサービスへご出勤(わが家では出勤と呼んでいる)。
介護は工夫次第で楽しくなる!を実践中!
【リハパン】排泄のコントロール時のリハビリ時に使用することから、
通称リハビリパンツ。略して「リハパン」と呼ばれている。
紙おむつのパンツタイプ。排尿5回相当分の吸収力がある。
第8幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじ(父)は、アルツハイマー星に住む認知星人。
昭和3年の満州育ち、認知星人に変身すると、皇室や戦争に関するビックリ話が多くなる。
じーじ「先ほど皇室会議で、8月15日以外は全て休日になったと通達があったから、れーこにも伝えておく。
関係する部署には早急に伝えるように。これから日本は変わるからな」
私「了解しました。通達します」
・・・とほほ、なんのことやらさっぱり解らんが、認知症の人が言うことを否定してはいけません。だからね。まあ、じーじの暦が、そうなったということで、よしとしよう。
そして次の日、じーじは、7時になっても起きてこない。
「デイに行く支度しないと間に合わないよ」と声をかけると、
「8月15日以外は全て休日になったと通達が来たと言っただろう。
だから今日デイは休みだ」
ひえ~、昨日、自分が話したことを覚えてる。大したもんだ!なんて感心している場合じゃない。
私は今日も仕事の予定が入っていて、日中はじーじのお世話はできないし。かといって、じーじを一人にしておく訳にもいかないし。「今日はデイはありますよ」なんてまっとうなことを言っても納得するわけもなく。
…ひらめいた!
私「先ほど、天皇陛下様から連絡があり、8月15日以外が休日になる案は、一旦保留になったとのことです。なので、本日、デイサービスに行ってくださいとのことでした」
と、厳粛な口調で言ってみた。
じーじ「そうなのか、でもなあそこのデイには憲兵がいてな、賄賂を渡さないといかんのだ、今日は、賄賂を渡すほどの金を持っていないから行かないぞ」
そ~きたか、なんだかんだ理由を付けて、デイサービスに行かない方法を口にするじーじ。なんとか、着替えをしたものの、「今日は行かない」の一点張り、もうすぐ送迎の時間だしどうしようと思っていたその時。
ピンポ~ンとチャイムの音。「黒川さんおはようございます」と、じーじの大好きな、南さんの声。すると、急に地球人に戻り、今日もニコニコデイサービスに出掛けたのであった。めでたしめでたし。
今日も楽しい認知症介護実践中!!
第7幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじ(父)は、アルツハイマー星に住む認知星人。
じーじは認知星人に変身する前には必ず決まってあるポーズをする。
握りこぶしを顎に当て(おでこの時もある)、数分間微動だにしない。
そして、このポーズをしたあとは必ずびっくりスペシャルな発言をする。
どうも、認知星と交信しているらしい。
今回の発言は「この間、東急建設に家を売った。担当者ともう一度話をするから、
今から支度をして東急建設に行く」。
わが家は、築40年。かなり年期が入っているが、じーじがちょこちょこ手入れを
してくれていたおかげでまだまだ現役。そんなことより、家を売っただとお!
私「え~!家売ったの?」
じーじ「そうだ、今年から固定資産税の税率が上がったから、この家の固定資産税は3,000万円になったんだ」
私「さ!さんぜんまんえん?」
じーじ「そうだ、お前はそんなことも知らなかったのか」
私の心の声「固定資産税が3,000万円だなんて、どんだけでっかい家だよ」
じーじ「東急建設に出掛けるぞ」
私「え~!今日は東急建設休みだよ」
じーじ「いや、そんなことはない、電話してたしかめろ!」
・・・電話するふり・・・
私「もう、営業時間外だって」
じーじ「困った、この間乗っ取り屋がきて、この家を乗っ取ろうとしている奴がいるから、売ったんだ」
私の心の声「へ?乗っ取り屋?固定資産税が3,000万円だから売ったんじゃなかったの?かい?」
私「乗っ取り屋が来たの?」
じーじ「この間、来ただろう、タオル持ってきた小太りの若造が、あいつだ」
…ひらめいた!
わが家の西側に、建売住宅が建つことになり、大手の住宅メーカーの方が挨拶に来てた。それだ!そういえば、じーじは私の隣で、何千万円の家ですか?って聞いてた。その額3,000万円。住宅メーカーは乗っ取り屋に、建売住宅の販売価格3,000万円は、わが家の固定資産税になった訳か。
私「まあ、今日のところは、東急建設はお休みだし、夕飯食べて、ビール飲もうか」との問いかけに、「しょうがない、ビール飲んでやるか」とニコニコしながらビールを飲んで今日のところは一件落着。今日も楽しく認知症介護実践中。
黒川 玲子