第12幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじは、アルツハイマー星に住む認知星人。地球人の時はいたって普通の91歳。認知星人のスイッチが入るとそれはそれは、地球人が思いもつかないような驚くべき発想で私たちに難題を突き付けてくる。
最近のじーじは認知症の症状でよくあると言われる収集癖がみられるようになり、ズボンのポッケやシャツのポッケには、きれいに畳まれたトイレットペーパーを山ほど入れている。毎日、見つけては捨てているのだが、うっかり、ポッケを確認しないで洗濯機を回してしまった後の惨劇。「また、やられた~ぁ、くそじじー」「まあ、お下品な物の言い方」などと一人芝居をしながら紙屑だらけの洗濯物を干すこの虚しさ。
そんなある日、なにやらぶつぶつと言いながら、何かを探している様子のじーじ。普段はすり足で、カメさんのような歩みだが、今日は、チーターにも負けないような速さで家中をセカセカ歩き回っているではないか。
「なんだ、結構速く歩けるじゃない」なんて呑気に構えている場合じゃないほど、その形相は般若のよう。「どうしたの?」と尋ねると。
じーじ「オレの磁気カードがない」
私「磁気カード?」
じーじ「そうだ、ピンク色で、これ位の大きさの四角いやつだ」
ピンク?磁気カード?私にはなんのことやらさっぱり解らないが、じーじにとってはとても大切な物らしくますます、険しい顔つきで家中を探し回っているではないか。
じーじ「机の上に置いてあったやつも、寝台(じーじはベッドを寝台と呼ぶ)の横に置いてあったやつもないんだ・・・きっとスパイに盗まれたに違いない」
ついには、「もうだめだ…」と言ながら、頭を抱えてうなだれている。
お!ちょっと待てよ、ピンク!これ位の大きさ?…もしかして、トイレットペーパーか?わが家のトイレットペーパーはピンク色。そして、これ位の大きさ?机の上?ベッドの横?もしかしてあのゴミか?
私「あ!あれね。捨てちゃったよ」
じーじ「す!捨てただとぉ~。あれがないと、我が国には大変なことが起きる」
へ?大変なことが起きる?あの、トイレットペーパーがか?
じーじが、磁気カードと言う物の正体は、次週のお楽しみ!
【収取癖】認知症の症状のひとつ。モノを集めてしまう、または拾ってくるなどがある。