第5幕 在宅介護 コラム ~認知星人じーじ~
わが家のじーじ(父)は、アルツハイマー星に住む認知星人。
最近、本人も前とは何か違うぞ!と思っているようで、
少々混乱ぎみなのか、ちょっとしたことで怒り出す、怒りん坊星人に変身する。
昨晩は「俺は幸子(私の母)を殺して、俺も自害する」と急に怒り出し、
途中から「殺せ~」と大声を出す始末。ご近所様が驚くといけないので、
急いで雨戸を閉めてみた。
「ふむふむ、じーじは、冷静な思考や行動を司る前頭葉が萎縮しているんだな」
なんて冷静に考えている場合ではない。ますます、大きな声で、自害するだの、
殺せだの大騒ぎ。
理由を聞いても私にはまったく何を言っているのか解らないが、
とりあえず。共感だよ、共感!と本に書いてある通りに
「そうなんだね。それは大変だったね」と言ってみるものの、
ますます興奮するばかり。精神安定剤はないし、どうしようかと途
方に暮れていたその時!
…ひらめいた!「そうだビールを飲ませて、寝かせてしまえ!」と思いついた。
じーじは、根っからの呑んベイ。特にビールは大好物。最近めっきり弱くなった
ので、たいがい350ml1本飲むと眠くなる。
「まあまあ、ビールでも、飲んで何があったのか話を聞かせて」と言って
ビールを差し出すと、「お!ビールか、喉が渇いていたからな」すんなり
ビールを飲むじーじ。
あれだけデカい声だしていたらそりゃあ喉も乾くでしょうと思いつつ、
先ずは、作戦成功。
話を聞くと、「いくら注意をしても部下の態度が良くならない」とか
「部長の指示が悪い」などと言うじーじ。「部下?」「部長?」
どうやらじーじは、デイサービスを会社だと思っているらしい。
なにか気に入らないことがあったようで、かなりのお怒りモード
で色々話するものの、どうして「自害する」になってしまうのかの
原因は解らずじまい。そのうち、気分も落ち着き、1時間後には、
地球人のじーじに戻り、ほろ酔い気分でご就寝。やった~!作戦成功。
そこで一句
「不穏時は、安定剤よりビールだね」
翌朝何事もなかったようにご機嫌でデイサービスにご出勤。
今日も楽しく認知症介護実践中!!
【不穏】医療や介護で使われる言葉。穏やかな状態でないこと、あるいは興奮することが予測できる状態にあること。
黒川 玲子